夢を叶えるオーディション

怪しいオーディションに注意

芸能事務所だとか、プロダクション、レーベルなどといった名前を謳うところはいくらでもあります。実際、その事業者の名前からでは何をしているところなのかを推し量ることは難しいのです。ホームページなども作り込み、さもプロが多数存在しているように見せかけながら、実態は全然違うということもあります。そのようなあやしい事業者でも、オーディションを実施しています。むしろ、「本物」のプロダクションよりも大々的に募っているほどです。
悪質な事務所の実例を挙げます。そこは音楽系と役者系を兼ねる事務所で、立ちあげて間もないところでした。代表を務める人間は業界でのマネジメント経験が長く、独立したということになっていました。そこでは日々オーディションを開き、様々な人材をスカウトしていました。不思議なことに、その合格率が異常に高かったのです。その事務所では毎日のように新人が増え続け、様々なプロジェクトが発足し、とても活発でした。業界を夢見る人たちは嬉々としてその事務所と契約を結び、所属するアーティスト、役者の数は100を下りませんでした。しかし、誰一人としてメディアはおろか表舞台に立っていませんでした。
「立ちあげて間もないから」ということは理由としては納得がいくのですが、それにしてもその代表がどこかに売り込みに行ったりしようとする様子はありません。それでもその事務所は収入があり、事業として成立していました。その事務所に所属する、あるひとりの作家が「どうやって稼いでいるのか、自分のギャラはどこから出ているのか」と代表に尋ねると、「自社スタジオのレンタル代がメインだ」という返事がありました。しかし、そのスタジオを使用しているのは自社に所属する人材だけでした。
それから少し経って、さらに決定的な出来事が起こりました。その作家が担当するアーティストのレコーディングの時が来ました。監修するのはその代表です。そして作家も立ち会い、渋谷のとあるスタジオでレコーディングが始まります。そのスタジオはアパートの一室を改造したものでした。プロが使うような豪勢なものではなく、設備も整っていません。しかし、その中でアーティストは一生懸命歌い、その日のうちに音源が出来上がりました。作曲した作家も満足のいく出来であったので、良いムードでレコーディングは終了したのですが、驚くべきことが起こりました。
100万円レベルの請求書を、代表がそのアーティストに渡していたのです。
その内容は設備利用代、作曲代、プロデュース代など、数多くの項目の寄せ集めでした。「支払いは一週間以内に」と代表は告げました。渡された当の本人は最初から了承済みだったのか、元気よく返事をしていました。
これはとある作家が経験した実話ですし、今でもその事務所は存在します。「プロがいない」事務所は、その収益を所属する人材から徴収するしかないのです。それを運転資金にして、また新人を募る。そしてまた集金する。これは「人の夢を食い物にした詐欺」です。通常、事務所やレーベル、プロダクションやレコード会社が、所属する人材から金銭を徴収することはあり得ません。むしろ支払われるはずなのです。
このような悪質な方法をとれば、誰でも「プロダクション」を作れてしまうのです。収入源は「オーディション」という言葉に惹かれていくらでもやってくるのです。「夢を追いかける」が故に、このような詐欺に「同意の上」金銭を支払ってしまっている人が数多くいます。断言できますが、そのような事務所で活動をしても何の未来もありません。実力も付きません。相手はクオリティなどどうでもよく、ただ集金できればいいのですから。くれぐれも、このような事務所に引っかからないようにしてください。見極めるポイントは、「打ち合わせ」と称する会食で料金を全て払ってくれるかどうか、こちらに金銭の要求はないかどうか、そして「プロ」がひとりでもいるかどうかです。「プロ」がいない事務所は収入源を別のところから確保する必要があります。そのようなところは「モグリ」と同じです。気をつけてください。

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